舌で味わう蘇州の夏

蘇州では、食が旬なのである。旬の食材は蘇州人の食卓を彩り、ひっそりとこの町に精緻な日常生活の雰囲気を漂わせる。「旬の食材にこだわる」は蘇州人の料理哲学である。

蘇州人は天の時に準ずるのを愛し、食べ物との縁を重視し、天地からの贈り物を時節に合わせて食べるという日常生活の喜びを楽しむことに長けているのである。食材の選定や調理法に関して、蘇州料理は常に「天人合一」の雰囲気が漂っている。

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夏の蘇州は少し蒸し暑いが、江南の清々しさとユニークな精緻さは依然として感じられる。このユニークな精緻さは、川に暮らす人々の食卓にも現れている。豊かな蘇州では、夏でも食欲が落ちる心配はない。様々な夏の旬の食材はいずれも部屋の中を通す夏の日の涼しい風のように舌を冷やし、夏を楽しく、美味しく、期待に満ちたものにしてくれる。 蘇州人は、夏をどのように味わっているのだろうか?

定番料理:楓鎮大肉麺、川エビの鶏頭米炒め

蘇州の麵料理は、種類が多く、こだわりがある。春夏秋冬、季節に合わせて麺料理を食べるのは、江南水郷でも珍しいことである。

楓鎮大肉麺は、夏の蘇州を代表する麺料理で、中国大ヒットのドキュメンタリー「舌尖上の中国2」でも紹介されていた。何故、蘇州人は夏になると、楓鎮大肉麺を特に好むのだろうか。伝説によると、乾隆年間に張という名の店主が、楓橋集鎮で紅湯麺屋を開いたが、たまたま、麺に具を入れないまま、飲みかけのお酒を間違って鍋に注いでしまったところ、こうしてできた肉が意外と香ばしくて、それ以来、白湯麺を売るようになったという。ある夏、乾隆帝が江南に下る途中、楓橋に寄ってこれを食べて感嘆し、「楓鎮白湯大肉麺」の名を賜った。それから300年、楓鎮麺はよく知られるようになり、古い蘇州人が必ず食べる夏の麺料理となった。楓鎮大肉麺は、スープが透き通っていて一見ごく普通に見えるが、香ばしくてたまらない。そして、面が「フナの背」のように白くて細く、肉は歯ごたえがあり、口に入れるとすぐとろける。

蘇州は水郷地帯に位置し、豊富な水の食材がある。鶏頭米は「水中の人参」と呼ばれている。湖に舟を浮かべて、捕ったばかりの鶏頭米を洗って皮を剥き、エビと一緒に炒めると、川エビの鶏頭米炒めというシンプルで精緻な旬の料理が出来上がる。あっさりとした味わいと、湿気を取り、潤いを取り戻すという治療効果から、蘇州の夏の食卓で愛されてきた料理である。

暑気払いのスイーツ:金木犀鶏頭米の飴湯緑豆スープ

蘇州人は食材を重視し、多様な調理法でその価値を表現し、活用することに長けているのである。鶏頭米については、エビと一緒に炒めるほか、飴湯にして夏の暑さを凌ぐこともできる。白くて丸い鶏頭米は、氷砂糖で甘みをつけて器の底に盛り、黄金色の金木犀の花がスープに浮かび、長閑で遠くまで届く香りに温かさがこもり、「至極の味」と思わず感嘆するほど、人の心に染みていく。

柔らかくて甘い金木犀と鶏頭米の飴湯より、緑豆スープの癒し効果はもっとダイレクトで爽やかな印象である。蘇州スタイルの緑豆スープは、一粒一粒がはっきり見える柔らかい緑豆に、雪のように白いもち米を加え、その上、ナツメの砂糖漬け、キンカン、青紅糸(加工食品・調味料)、冬瓜糖、小豆を飾ったものであり、泡立つミントウォーターに入れたカラフルなトッピングが目を楽しませてくれる。清涼感のあるミントウォーターが喉を通り、一瞬で暑さを和らげてくれる。

夏の軽食:肉餡団子炒め、糟

初夏に登場し、9月までに発売されている肉餡団子炒めは、蘇州の夏の風物詩的なお菓子である。挽き肉、タケノコ、キクラゲ、エゾキスゲ、エビなど季節の具を柔らかくて薄い皮で包み、団子の口につやつやのエビが飾られているのが特徴である。あっさりとした口当たりで、ジューシーに仕上がっており、全然脂っこくない。

蘇州人にとって、夏は糟の香りが欠かせないものである。夏になると、どの家も塩味の効いた、爽やかな味で香りがプンプンする糟漬け料理を作る。蘇州人の台所では、すべてが「糟」で漬けられる。いくらありふれて面白みのない食材でも、糟の働きで食欲をそそる夏の味覚に変身するのである。

数多くの糟漬けものの中でも、糟鵝は一番の目玉商品だと言えるだろう。本場の蘇州糟鵝は太湖の鵝でなければならないと言われ、その肉は繊細で香ばしく、食べるときは必ずお肉をスープに浸してから口に入れる。そして、お酒を一口飲む。お酒と肉の味が口の中で融合して広がり、とてもおいしい。

やさしい蘇州人は、常に人生に情熱を持っている。食べることは、その最も素朴で直接的な表現である。夏を食べては秋を食べる。9月の大閘蟹はまた新しい楽しみになる。蘇州人はこうして季節に追いながら、食材の変化がもたらした諸々の味を味わっている。